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9回 亀ちゃんコラム

あの頂上に立ちたくて

どうしても画面を見ないと歌えませんでした。

 

カラオケで歌う好きな歌。
何十回も歌っているのに、画面がなければ無理でした。

 

そんな私が、仲間と一緒に「ウクレレ」を習うことになりました。
月に一回の教室です。
最後に、来月練習する曲の歌詞とコードが書かれた楽譜をもらいます。
私は目が見えないので、文章データで受け取ります。
来月までに、それを覚えておかないと、みんなと一緒に練習ができません。

 

「覚えるのは苦手です」
なんて言っていられなくなりました。
コードの押さえ方や、リズム、メロディーの弾き方は教室で教えてもらえます。
でも、暗記の方法までは教えてもらえません。

 

悩むより、まずは手探りで始めました。

 

私たち盲人のパソコンには、文字を読み上げてくれる機能があります。
それを使って、一小節ずつパソコンに読んでもらいます。
頭に入れて、ウクレレを弾く。
また聞いて、また弾く。
繰り返しているうちに、段々指が痛くなってきます。
途中で休憩です。

 

しばらくして再開すると、さっき覚えたはずの歌詞とコードが出てきません。
また初めからです。
それを何度も繰り返し、ようやく一曲が弾けるようになりました。
でも、次の日にはまた忘れているので、おさらいです。

 

そんな日を重ねるうちに、一曲が少しずつ自分のものになっていきました。
「よしっ!」
嬉しくて、ウクレレの音も、歌う声も大きくなります。
一人でドヤ顔です。
一つできたのなら、次もいける。
そうして毎月、一曲ずつ弾ける曲が増えていきました。

 

ウクレレを始めて3年目の元旦。
私は思い切って宣言しました。

 

「今年中に100曲覚えるぞ」

 

口に出した瞬間、自分の中で何かが変わりました。
そこからは、覚えては忘れ、忘れては覚える毎日。

 

「100曲じゃなくてもいいんじゃないの?」
弱気な声が、何度も頭をよぎります。
でも、そのたびに、心の中から別の声が聞こえてきました。

 

「あきらめたら、そこまで」

 

そしてその夏。
ついに目標に手が届きました。
苦労して登り切った山の頂上で感じる風。
「この道を上って来たんだなぁ……」
胸いっぱいに風を吸い込みながら、これまでの日々を思い出しました。
「よく頑張った」
そう言って、自分をほめてやりました。

 

この体験は、私にたくさんのことを教えてくれました。

 

夢が生まれたら、実現する方法を考えること。
口に出すことで、本気になれること。
まず一歩を踏み出すこと。
壁を越えること。
そして、あきらめないこと。

 

私の好きな言葉があります。

 

「努力をしたからといって、必ず報われるとは限らない。でも、成功した人は必ず努力している」

 

口に出すのは怖かった。
でも、思い切って言って良かったです。
私は、自信を手に入れました。
この自信は、次の夢が生まれたとき、きっとまた私の背中を押してくれるでしょう。

 

ウクレレは楽器でした。
でも同時に、私を強くしてくれるマシンでもありました。

コラムを書いた人

にしかめ まこと西亀 真

盲目のセラピスト・アイマスク講演家。「幸せの入り口屋」初代当主。広島県三原市生まれ。
百貨店でシステムエンジニアとして勤務後、難病「網膜色素変性症」を発症。視力を失う中でカウンセラー資格を取得し、産業カウンセラーとしても活動。現在は全国で講演活動を行い、「感謝と挑戦とあきらめない」をテーマに心を整えるメッセージを届けている。

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著書のご紹介

西亀真さんはこれまでに
2冊の著書を出版されています。

  • 幸せの入り口屋いらっしゃいませ
  • 盲導犬シエルと歩いた幸せの道